最近の「上司ガチャ」について思うこと

「上司ガチャ」という言葉を、よく見聞きするようになりました。

配属先の上司を部下が自由に選ぶことは難しく、誰の下で働くかによって、仕事のしやすさや成長の機会が大きく変わる。その状況を、何が出るか分からないカプセルトイになぞらえた言葉です。

確かに、職場では上司との出会いが、その後のキャリアを左右することがあります。

同じ会社、同じ仕事であっても、上司が変わっただけで力を発揮できるようになる人がいます。反対に、それまで意欲的に働いていた人が、上司との関係をきっかけに自信を失い、退職を考えることもあります。

私も、人事や組織運営に長く関わるなかで、上司が部下に与える影響の大きさを感じてきました。

だからこそ、「上司ガチャ」という言葉が生まれた背景はよく理解できます。

その一方で、上司との問題をすべて「ガチャに外れた」という言葉で片づけることには、少し危うさも感じています。

本当に「はずれ」と呼ぶべき上司はいる

世の中には、明らかに問題のある上司が存在します。

部下の人格を否定する。人前で繰り返し叱責する。達成できないほどの仕事を一方的に押しつける。気に入った部下だけを優遇する。失敗を部下の責任にし、成果だけを自分のものにする。

このような行為によって部下が追い詰められているのであれば、単なる相性の問題ではありません。

「自分の受け止め方が悪いのではないか」「社会人なら我慢すべきではないか」と考え続ける必要もありません。

記録を残し、人事や社内の相談窓口、必要に応じて社外の専門機関に相談することが大切です。心身への影響が大きい場合には、その環境から離れることも自分を守るための正当な選択です。

こうした上司の問題を、「どこの会社にも合わない上司はいる」と軽く扱ってはいけません。

厳しい上司が、すべて悪い上司とは限らない

一方で、自分にとって働きにくい上司が、必ずしもすべての部下にとって悪い上司とは限りません。

細かく進捗を確認する上司を、「丁寧に見てもらえて安心できる」と感じる人もいれば、「監視されているようで窮屈だ」と感じる人もいます。

仕事を任せて口を出さない上司を、「信頼してくれている」と感じる人もいれば、「何も教えてくれない」と感じる人もいます。

高い目標を求める上司の下で成長できる人もいれば、強いプレッシャーを感じて力を発揮できなくなる人もいます。

対話を重ねながら進めたい部下と、結論や成果を優先する上司では、お互いに悪意がなくても関係がうまくいかないことがあります。

ここにあるのは、明らかな善悪というよりも、仕事の進め方、伝え方、期待する役割、距離感などの違いです。

それをすべて「上司ガチャに外れた」と表現してしまうと、自分がどのような関わり方を求めているのかが見えにくくなります。

「ガチャ」という言葉が奪ってしまうもの

「ガチャ」という表現には、自分ではどうにもできず、当たり外れは運によって決まるという意味が含まれています。

確かに、上司を自由に選べないという点では、そのような側面があります。

しかし、すべてを運の問題にしてしまうと、二つの大切な視点が失われます。

一つは、会社の責任です。

誰を管理職にするのか。管理職に必要な教育を行っているのか。部下から相談があったときに適切に対応するのか。問題のある上司を放置していないか。

これは、決して運の問題ではありません。

部下が「上司ガチャに外れた」と諦めなければならない状態をつくっているとすれば、それは個人の問題ではなく、組織のマネジメント上の問題です。

もう一つは、部下自身が取れる選択肢です。

上司との違いを具体的に整理する。求めている支援や仕事の進め方を伝える。周囲に相談する。担当業務や部署の変更を検討する。それでも改善が難しければ、転職を考える。

上司を直接変えることは難しくても、自分の状況を整理し、次の行動を選ぶことまで、すべて運任せにする必要はありません。

上司だけでなく、関係性を見る

上司と部下の関係がうまくいかないとき、どちらか一方を「悪い人」と決めれば、話は分かりやすくなります。

しかし、実際の職場では、上司個人の資質、部下の希望、業務の内容、仕事量、組織の制度など、複数の要因が重なっています。

例えば、上司に十分な指導力があったとしても、部下の人数が多すぎれば、一人ひとりを丁寧に支援することは難しくなります。

会社から高すぎる目標を課されている上司が、その圧力を部下にそのまま向けてしまうこともあります。

反対に、上司が丁寧に説明しているつもりでも、部下が求めている支援と一致していないことがあります。

だからこそ、「上司が外れだった」という結論だけで終わらせず、何が自分を苦しくさせているのかを具体的に考える必要があります。

指示の出し方なのか。

コミュニケーションの頻度なのか。

評価の基準なのか。

任されている役割なのか。

仕事量や責任の重さなのか。

人として尊重されていないと感じることなのか。

原因が分かれば、対話によって調整できる問題なのか、組織として対応すべき問題なのか、あるいはその環境から離れる必要があるのかを判断しやすくなります。

よい上司との出会いも、偶然だけでは終わらせない

キャリアを振り返ると、「あの上司に出会えたから成長できた」と思えることがあります。

自分の強みを見つけてくれた。難しい仕事を任せてくれた。失敗したときに守ってくれた。必要なときには厳しく指導し、最後まで見放さなかった。

そのような上司との出会いは、確かに幸運です。

しかし、大切なのは「当たりの上司だった」で終わらせず、その上司のどのような関わり方が自分の成長につながったのかを知ることです。

自分は、どの程度の裁量があると力を発揮できるのか。どのような言葉で評価されると意欲が高まるのか。困ったときに、どのような支援を必要とするのか。

それを理解しておけば、次の職場や上司が変わったときにも、自分に必要な環境を伝えやすくなります。

よい経験からも、合わなかった経験からも、自分に合う働き方を知ることができます。

上司との出会いを「運」だけにしないために

上司は、部下のキャリアや心身の状態に大きな影響を与えます。

その意味では、「上司ガチャ」という言葉が示す現実を否定することはできません。

しかし、明らかに問題のある上司と、自分とは仕事の進め方や価値観が合わない上司とを、一緒くたにするべきではないと思います。

問題のある行為は、組織として是正しなければなりません。

相性や期待のずれについては、まず違いを言葉にし、対話や調整の可能性を探る必要があります。

そして会社には、管理職を任命して終わりにせず、教育し、部下の声を確認し、問題があれば適切に介入する責任があります。

働く人にも、自分がどのような上司や職場環境の下で力を発揮しやすいのかを知り、必要なときには周囲へ助けを求めることが大切です。

上司との出会いには、確かに偶然があります。

けれども、その後をすべて運任せにする必要はありません。

「当たりだった」「はずれだった」で終わらせず、何がよかったのか、何が合わなかったのかを丁寧に整理する。

それが、自分に合った働き方を見つけ、よりよい組織をつくるための一歩になるのではないでしょうか。

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