自分で選べと言われる時代に、必要な支援とは
最近、「キャリア自律」という言葉を目にする機会が増えました。
終身雇用や年功序列を前提としたキャリア形成が変化し、働く人一人ひとりが、自分の能力や価値観、これからの働き方を主体的に考えることが求められています。リスキリング、ジョブ型人事、副業、転職、独立、二地域居住など、選択肢は以前よりも広がっているように見えます。
厚生労働省も、キャリアコンサルティングを通じて、自分の適性・能力・関心に気づき、自己理解を深め、自分に合った仕事を主体的に選択できるようになることを期待される効果として示しています。 また、セルフ・キャリアドックは、キャリアコンサルティング面談やキャリア研修を組み合わせ、従業員の主体的なキャリア形成を支援する取組みとして位置づけられています。
こうした流れ自体は、とても大切なことだと思います。
ただ一方で、少し気になることもあります。
それは、「キャリアは自分で考えるもの」という言葉が、いつの間にか「自分で何とかしなさい」というメッセージに変わってしまうことです。
自律とは、本人にすべてを丸投げすることではありません。
自分の強みや価値観を理解すること。
今の仕事や役割との相性を見つめ直すこと。
会社の中での可能性と、会社の外にある選択肢の両方を考えること。
そのうえで、納得できる方向性を選んでいくこと。
本来のキャリア自律には、こうしたプロセスが必要だと思います。
しかし現実には、日々の仕事に追われる中で、自分のキャリアを落ち着いて考える時間はなかなか取れません。会社の中で相談しようとしても、評価や異動、退職意向と結びついて見られるのではないかと不安になることもあります。転職サービスに相談すれば、どうしても求人や転職の話に寄りやすくなります。
その結果、「このままでいいのか」という違和感はあるのに、どこに相談すればよいのかわからない。
そう感じている人は少なくないのではないでしょうか。
キャリア自律を考えるうえで大切なのは、いきなり答えを出すことではなく、まず自分の状態を整理することです。
今の仕事は、自分の関心や強みに合っているのか。
求められている役割に納得できているのか。
職場の人間関係や組織風土に無理はないか。
負荷は持続可能な範囲にあるのか。
働く条件や暮らし方は、自分の人生に合っているのか。
その仕事に意味や納得感を感じられているのか。
こうした問いを分けて考えることで、見えてくるものがあります。
転職が必要な場合もあるでしょう。
今の職場で役割を見直せばよい場合もあるでしょう。
学び直しや副業が次の一歩になることもあります。
あるいは、働く場所や暮らす場所を変えることが、人生全体の見直しにつながる場合もあります。
キャリア自律とは、「会社を辞めること」でも「一人で頑張ること」でもありません。
自分と仕事、自分と組織、自分と暮らしとの関係を見つめ直し、自分に合った選択肢を考えられる状態をつくることだと思います。
健康診断で身体の状態を確認し予防や改善につなげる、肩が凝ったらマッサージに通うように、キャリアにも、今の状態や環境との相性を客観的に見つめ直す機会があってよいはずです。
調子が悪くなってからではなく、小さな違和感の段階で立ち止まる。
自分の状態を整理し、必要な選択肢を考える。
キャリア自律が求められる時代だからこそ、本人が安心して立ち止まり、会社や求人の枠だけにとらわれず、自分のために考えられる場が必要なのではないかと感じています。
