ー学び直しの前に、まず整えたいことー
最近、「リスキリング」という言葉を目にする機会が増えました。
生成AI、DX、デジタル人材、ジョブ型人事、労働移動。
働く環境が変わる中で、これまでの知識や経験だけでは対応しきれない場面が増え、学び直しの重要性が語られるようになっています。
国の政策の中でも、リスキリングは重要なテーマとして扱われています。内閣官房の新しい資本主義実現会議でも、「リ・スキリング・労働移動・構造的な賃上げの方向性」が議題とされてきました。 また、厚生労働省委託事業であるキャリア形成・リスキリング推進事業では、キャリアコンサルティングやセルフ・キャリアドックを通じて、個人の主体的なキャリア形成やリスキリング支援が位置づけられています。
こうした流れ自体は、とても大切なことだと思います。
変化の激しい時代に、学び続けることは必要です。
新しい知識を得ることも、スキルを磨くことも、自分の可能性を広げるうえで大きな意味があります。
ただ一方で、少し気になることもあります。
それは、リスキリングという言葉が広がるほど、いつの間にか「今のままでは足りない」「何か学ばなければ遅れる」という焦りにつながってしまうことです。
もちろん、スキルが必要な場面はあります。
デジタルスキル、語学、マネジメント、専門資格、AI活用など、身につけることで選択肢が広がるものはたくさんあります。
しかし、キャリアの悩みは、必ずしもスキル不足だけから生まれるわけではありません。
本当は、今の役割が合っていないのかもしれない。
仕事内容が、自分の強みや価値観とずれているのかもしれない。
人間関係や組織風土に無理があるのかもしれない。
働き方や負荷が、生活や健康と合わなくなっているのかもしれない。
仕事の意味や将来へのつながりを感じにくくなっているのかもしれない。
その状態で、焦って資格やスキルを増やしても、根本的な違和感は残ることがあります。
「何を学ぶか」の前に、
「なぜ学びたいのか」
「どこで力を発揮したいのか」
「どんな働き方を続けたいのか」
を整理することが大切なのではないでしょうか。
リスキリングは、足りないものを埋める作業だけではないと思います。
むしろ、自分がこれからどのように働き、どのように暮らし、どのような役割で社会と関わっていきたいのかを考えるための手段でもあります。
たとえば、同じ「学び直し」でも、目的によって選ぶ内容は変わります。
今の会社で役割を広げるために学ぶのか。
転職に備えて市場価値を高めるために学ぶのか。
副業や独立の準備として学ぶのか。
人を支援する仕事へ近づくために学ぶのか。
地方や地域との関わりを広げるために学ぶのか。
目的が違えば、必要な学びも、進め方も、時間の使い方も変わります。
だからこそ、リスキリングを始める前に、まず自分の現在地を見つめ直すことが必要です。
今の仕事で満たされていることは何か。
逆に、満たされていないことは何か。
どんな場面で力を発揮できているのか。
どんな環境だと消耗しやすいのか。
これから守りたい価値観は何か。
変えたい働き方や暮らし方は何か。
こうした問いを整理してから学び始めると、リスキリングは単なる焦りではなく、自分らしい選択肢を広げるための行動になります。
企業にとっても、同じことが言えると思います。
社員に「学び直しなさい」と伝えるだけでは、キャリア自律は進みにくいものです。
本人が何に違和感を持ち、どんな強みを活かしたいのか。
会社の中でどのような役割を担えるのか。
本人の成長と組織の方向性をどうつなげるのか。
そこを一緒に考える場があってこそ、リスキリングは本人にとっても組織にとっても意味のあるものになります。
学び直しは、大切です。
けれど、何でも学べばよいわけではありません。
まずは、自分と仕事、自分と組織、自分と暮らしの関係を見つめ直すこと。
そのうえで、自分にとって必要な学びを選ぶこと。
それが、これからの時代のリスキリングには必要なのではないかと感じています。
