「AIに仕事を奪われる」という言葉に、少し違和感がある
最近、「AIによってホワイトカラーの仕事がなくなるのではないか」という話をよく耳にします。
確かに、生成AIの進化を実際に使ってみると、その可能性をまったく否定することはできません。
文章を書く。
資料のたたき台を作る。
情報を調べる。
議事録をまとめる。
データを整理する。
メールの文面を考える。
企画のアイデアを出す。
少し前までは、人が時間をかけて行っていた仕事のかなりの部分を、AIが短時間で手伝えるようになりました。
私自身も日々AIを使っていますが、「これは仕事のあり方そのものを変える技術だ」と感じる場面が増えています。
ただ一方で、私は「AIによって仕事がなくなる」という表現だけでは、本質を捉えきれないとも感じています。
むしろこれから起きるのは、
職業が丸ごとなくなるというより、一つの職業の中にある仕事が分解され、AIが担う部分と、人が担う部分が組み替わっていくこと
ではないでしょうか。
ILO(国際労働機関)の2025年の研究でも、世界の約4人に1人が生成AIの影響を受け得る職業に就いている一方、最も可能性が高いのは「仕事の消滅」ではなく「仕事の変容」だとしています。特に事務系職種のAIへの露出度が高い一方、専門職や技術職にも影響が広がっています。
ホワイトカラーの「仕事の中身」が変わる
これまでの会社では、
「この資料を作る」
「会議内容をまとめる」
「過去の事例を調べる」
「顧客向けの説明文を作る」
といった業務そのものに、人の時間を使ってきました。
これからは、そうした仕事の多くで、
AIに下書きをさせ、人が確認し、判断し、修正する
という形が当たり前になっていくでしょう。
すると、人に求められる能力も変わります。
単に「きれいな資料を作れる人」より、
何のためにその資料が必要なのかを考えられる人。
単に「情報を集められる人」より、
どの情報を信じ、何を判断材料にするかを決められる人。
単に「文章を書ける人」より、
誰に、何を、なぜ伝えるのかを考えられる人。
こうした能力の価値が高くなっていくと思います。
つまり、仕事の重心が、
作業する力から、問いを立てる力・判断する力・人を動かす力へ移っていく。
ここがAI時代のキャリアを考えるうえで、とても重要なポイントだと思っています。
では、雇用は減るのか
ここは慎重に見た方がよいでしょう。
世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」では、2030年までに現在の仕事の約22%が構造変化の影響を受け、1億7,000万の仕事が生まれる一方、9,200万の仕事が失われ、差し引きでは7,800万の雇用増になるとの予測が示されています。また、仕事で必要となるスキルの約4割が変化するとしています。
つまり、
「仕事がなくなる」というより、「仕事の入れ替わりが大きくなる」
と考えた方が近いのでしょう。
しかも日本にはもう一つ大きな事情があります。
それが人手不足です。
厚生労働省は、日本を「長期的かつ粘着的な人手不足」の状態にあると分析しています。2025年版の労働経済白書では、事業継続に必要な人手が不足していると感じる企業が約71%、新規事業については約73%に上っています。
直近の2026年6月でも、完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.18倍です。
ですから、日本で近い将来に「AIによって一斉に人が余る」という単純な状況になるとは限りません。
むしろ私は、
人が足りない仕事と、人が余る仕事が同時に存在する
可能性の方が高いのではないかと思っています。
ここに、これからのキャリアの難しさがあります。
「会社にいること」より「何ができるか」が問われる
これまでの日本では、
「どこの会社に勤めているか」
「何年勤めているか」
「どんな役職についているか」
がキャリアの重要な要素でした。
もちろん、これらがなくなるわけではありません。
しかしAIによって仕事の進め方が変わると、企業側も、
「この人を何人採用するか」ではなく、「AIを使いながら、この仕事をどう遂行するか」
を考えるようになります。
すると、一人ひとりに求められるのは肩書だけではなく、
何を理解しているのか。
何を判断できるのか。
どんな問題を解決できるのか。
誰と協働できるのか。
という、より実質的な能力になっていくでしょう。
これは若い世代だけの話ではありません。
むしろ40代、50代のビジネスパーソンにとっても大きな変化です。
経験が長いから安心なのではなく、逆に、その経験をAIでは代替しにくい価値に変換できるかが重要になります。
AI時代に、今から準備しておきたいこと
私は、すべての人がAIエンジニアになる必要はないと思っています。
必要なのは、まずAIを避けないことです。
自分の仕事の中で、
「これはAIに任せられそうだ」
「これはAIと一緒にやった方が速い」
「これは自分が判断しなければいけない」
という境界を、自分自身で理解していくことです。
そして同時に、AIでは簡単に代替できない部分を育てる。
たとえば、
専門知識。
現場経験。
判断力。
顧客理解。
交渉力。
人との信頼関係。
マネジメント。
人の話を聴き、状況を整理する力。
こうした能力は、AIが進化するほど、むしろ重要になる可能性があります。
もう一つ大切なのは、自分自身のキャリアを定期的に点検することです。
今の仕事で、
何を大切にしているのか。
どんな仕事なら力を発揮できるのか。
どんな人間関係なら働きやすいのか。
どの程度の負荷なら無理なく続けられるのか。
何にやりがいを感じるのか。
AI時代には職種名だけを見てキャリアを考えるのではなく、こうした**「自分と仕事との関係」**を理解しておくことが、これまで以上に重要になると思います。
大切なのは「AIに勝つこと」ではない
AIはこれからも進化していくでしょう。
そのたびに、
「この仕事もAIでできるようになった」
「次はこの職業が危ない」
というニュースが出てくると思います。
しかし、そのニュースを見るたびに不安になる必要はありません。
キャリアというのは、一つの職業に一生しがみつくことではなく、
環境の変化に合わせて、自分の経験や強みの使い方を変えていくこと
でもあるからです。
AIに勝とうとする必要はありません。
AIが得意なことはAIに任せる。
そのうえで、
自分は何を考え、何を判断し、誰にどんな価値を提供するのか。
そこを考えることが、これからのキャリアではますます大切になるのだと思います。
AI時代だからこそ、自分のキャリアを一度立ち止まって見直してみる。
「今の仕事を続けるか、辞めるか」という二択ではなく、
今ある経験をどう活かし、これからどんな働き方へ整えていくか。
私は、そこから考えていけばよいのではないかと思っています。
