最近の「社内異動」に思うこと

ー転職しなくても、キャリアは変わるー

社内異動は、会社の中ではよくある人事施策の一つです。

組織変更。
人員配置の見直し。
新規事業への参加。
ジョブローテーション。
管理職への登用。
本人の希望を踏まえた配置転換。

会社にとっては、事業を進めるうえで必要な人材配置であり、社員の経験を広げる機会でもあります。

しかし、異動する本人にとっては、単なる「部署変更」では済まないことがあります。

転職したわけではない。
会社も雇用条件も大きく変わっていない。
それにも関わらず、仕事内容、上司、同僚、役割、評価基準、求められる成果が変わる。

これは、本人にとってはかなりインパクトのあるキャリアの節目です。

同じ会社にいても、キャリアは変わります。

むしろ、社内異動の難しさは、「同じ会社だから大丈夫だろう」と見られやすいところにあるのかもしれません。

新しい部署に移ると、これまで通用していたやり方が通用しなくなることがあります。
前の部署では評価されていた強みが、新しい部署ではすぐには見えにくいこともあります。
人間関係も一から作り直しになります。
業務知識や専門用語も変わります。
何より、自分がその場所で何を期待されているのかが分かりにくいことがあります。

そのときに本人が感じる不安は、必ずしも能力不足ではありません。

「自分はこの部署で何を求められているのか」
「これまでの経験は役に立つのか」
「どこまで前のやり方を持ち込んでよいのか」
「新しい仕事を覚える時間はあるのか」
「評価される基準は何なのか」
「この異動は自分のキャリアにどうつながるのか」

こうした問いが整理されないままだと、異動は本人にとって大きな負担を抱えることになる出来事になります。

会社側から見ると、適性や経験を考えて配置しているつもりでも、本人の中では納得感が追いついていないことがあります。

なぜ自分がこの部署なのか。
この異動にはどんな意味があるのか。
これから何を身につければよいのか。
将来のキャリアにどうつながるのか。

そこが見えないと、異動は成長機会ではなく、「突然環境が変わった出来事」として受け止められてしまいます。

社内異動をうまく機能させるためには、異動そのものよりも、その前後の対話や準備が大切だと思います。

まず、本人が何に不安を感じているのかを整理すること。
仕事内容なのか。
人間関係なのか。
評価基準なのか。
経験不足なのか。
役割期待の曖昧さなのか。
それとも、本人が大切にしている働き方や価値観とのズレなのか。

不安の正体が分からないまま、「まずは頑張ってみよう」だけで進めると、本人も上司も苦しくなります。

次に、新しい役割で何を活かせるのかを整理することも大切です。

これまでの経験の中で、新しい部署でも使えるものは何か。
逆に、一度手放した方がよい仕事の進め方は何か。
最初の3か月で身につけるべきことは何か。
誰に相談すればよいのか。
どこまでを自分で抱え込まず、周囲に頼ってよいのか。

こうしたことを言葉にするだけでも、異動への不安は少し整理されます。

また、社内異動では「本人の希望」と「会社の期待」の両方を見る必要があります。

本人がやってみたいこと。
本人が自然に力を出せること。
会社が期待している役割。
新しい部署で求められる成果。
今後のキャリアにつながる経験。

この重なりが見えてくると、異動は単なる配置ではなく、本人にとって意味のあるキャリアの一歩になります。

一方で、重なりが少ない場合もあります。

本人は希望していないが、会社としては必要な配置。
本人はできるけれど、本当はあまり続けたくない役割。
本人は挑戦したいが、まだ経験や準備が足りない仕事。
会社の期待は大きいが、本人の生活や体力の条件と合っていない役割。

こうしたズレがあること自体は、悪いことではありません。
大切なのは、そのズレを見ないまま進めないことです。

異動前にすべてを解決することはできません。
新しい仕事は、やってみなければ分からない部分もあります。

それでも、本人が何を不安に感じているのか、何を大切にしたいのか、どこに準備が必要なのかを確認しておくことはできます。

会社側も、配置して終わりではなく、異動後の立ち上がりを支えることが必要です。

異動後の1on1。
最初の役割期待のすり合わせ。
業務理解のサポート。
相談先の明確化。
短期的な成果を急ぎすぎない配慮。
本人の状態を確認する面談。

こうした支援があるだけで、異動はずいぶん違ったものになります。

社内異動は、退職を防ぐためだけの手段ではありません。
本人の可能性を広げる機会にもなります。

今まで見えていなかった強みが、新しい部署で見つかることがあります。
前の部署では活かしきれなかった経験が、別の役割で意味を持つこともあります。
新しい人間関係の中で、自分の仕事観が変わることもあります。

ただし、そのためには、異動を「会社が決めた配置」としてだけ扱わないことです。

本人にとっては、働き方や役割が変わる大きなキャリアの節目です。
その節目に、少し立ち止まり、自分の状態や期待される役割を整理する。

転職しなくても、キャリアは変わります。
会社の中にいても、働き方や役割は変わります。
だからこそ、社内異動にも、キャリアチェンジとしての準備と対話が必要なのだと思います。

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