ー昇進したくないのは、意欲がないからなのかー
最近、「管理職になりたくない」という声を耳にする機会が増えました。
以前であれば、昇進や管理職になることは、キャリアアップの分かりやすい目標として語られることが多かったように思います。
しかし今は、必ずしもそうではありません。
「管理職にはなりたくない」
「責任だけ増えそう」
「部下の管理より、自分の専門性を活かしたい」
「プレイヤーとして働いている方が充実している」
「管理職になっても、報酬や裁量が見合わない」
こうした声は、単なるわがままや意欲の低下として片づけられるものではないと感じています。
実際、管理職や昇進に関する意識調査では、管理職になりたい意向を持つ人は女性で27.8%、男性で42.0%にとどまり、管理職になりたくない理由としては「仕事の責任・プレッシャーが重すぎる」が男女ともに最も高い結果となっています。女性では「仕事とプライベートの両立が難しい」、男性では「昇進しても報酬が魅力的でない」も高く、管理職という役割の負荷や条件面への違和感が見えます。
また、別の調査では、30歳未満の就労者のうち「管理職になりたくない」と回答した人が65.3%に達したとされています。若い世代ほど、従来型の昇進や管理職像に対して、慎重な見方をしていることがうかがえます。
一方で、企業側から見ると、これは大きな課題です。
帝国データバンクの調査では、企業の67.8%がリーダー人材の不足を実感しており、リーダー人材を育成する上での課題として「リーダー職への意欲」をいかに高めるかが最も高い項目になっています。企業にとっても、管理職を担う人材の確保は、今後ますます重要なテーマになっています。
ここで考えたいのは、
管理職になりたくない人は、本当に成長意欲がないのか
ということです。
私は、必ずしもそうではないと思います。
むしろ、成長意欲があるからこそ、自分に合わない役割を引き受けることに慎重になっている人もいるのではないでしょうか。
たとえば、専門性を深めたい人が、急に人の管理や調整ばかりを求められる。
現場で価値を出すことにやりがいを感じている人が、会議や評価、部下対応に時間を取られる。
自分の裁量が広がると思っていたら、実際には上層部と現場の板挟みになる。
責任は増えるのに、報酬や権限は大きく変わらない。
このような状態であれば、「管理職になりたい」と思えないのは自然なことかもしれません。
つまり、問題は本人の意欲だけではなく、本人が望む働き方と、会社が提示している管理職像との不一致にある可能性があります。
管理職という役割には、本来さまざまな形があります。
人を育てる管理職。
チームの方向性を示す管理職。
現場の声を経営に届ける管理職。
専門性を活かしながら後進を支援する管理職。
プレイングマネジャーとして成果と育成を両立する管理職。
しかし実際には、会社ごとに管理職の役割が曖昧なまま、責任だけが増えていることもあります。
「管理職になりたくない」という声の裏には、
「その管理職像にはなりたくない」
という意味が含まれているのかもしれません。
だからこそ、企業は「なぜ管理職になりたがらないのか」を、本人の姿勢だけで判断しない方がよいと思います。
役割は明確か。
裁量はあるか。
負荷は過剰ではないか。
報酬や評価は見合っているか。
上司や経営からの支援はあるか。
管理職になった先に、本人が大切にしたい価値観や成長実感はあるか。
こうした点を整理しないまま、昇進意欲だけを求めても、本人にとっても組織にとっても苦しくなります。
一方で、個人の側も「管理職になりたくない」で終わらせるのではなく、もう少し分解して考えてみる価値があります。
何が嫌なのか。
責任なのか。
人の評価なのか。
板挟みなのか。
長時間労働なのか。
自分の専門性が失われることなのか。
それとも、今の会社の管理職像に魅力を感じられないだけなのか。
そこを整理すると、見えてくる選択肢は変わります。
管理職にならない選択もあります。
専門職として力を発揮する道もあります。
小さなチームリーダーから試す道もあります。
育成や1on1など、自分に合う役割だけを部分的に担う道もあります。
会社を変えれば、違う管理職像に出会えることもあります。
大切なのは、昇進するかしないかの二択ではなく、自分がどのような役割なら自然に力を発揮できるのかを考えることだと思います。
管理職になりたくないという声は、組織にとっての危機であると同時に、働く人と組織の関係を見直すサインでもあります。
人は、責任を避けたいだけで動いているわけではありません。
納得できる役割であれば、人は力を尽くすことができます。
信頼され、裁量があり、支援され、自分の価値観とつながる役割であれば、管理職という仕事にも意味を見出せる人はいるはずです。
だからこそ、これからの組織には、管理職候補者に対して「覚悟を持て」と迫るだけではなく、役割、業務、関係性、負荷、条件、意義を一緒に整理する場が必要なのではないでしょうか。
管理職になりたいか、なりたくないか。
その答えを急ぐ前に、
どんな役割なら、その人は力を発揮できるのか。
どんな環境なら、責任を前向きに引き受けられるのか。
そこから考えることが、本人にとっても、組織にとっても大切だと感じています。
